突然のめまいや吐き気、手足のふるえなど、パニック障がいの発作は不安が強く身体的に大きな苦痛をともないます。
しかし、パニック障がいは、ご本人の苦痛を周りの人は理解しにくい疾患だといわれています。
そこで今回は、パニック障害がいの基礎知識や症状、看護師としてのコミュニケーションの取り方を解説します。
パニック障がいとは、強い恐怖や不安をともなうパニック発作が起きることで、日常生活に支障をきたす障がいです。
パニック障がいの特徴や診断基準、症状を詳しく見てみましょう。
パニック障がいは不安障がいのひとつで、予期せず強い不安や恐怖心にかられ、パニック発作を起こします。
危険にさらされると、誰しも不安や恐怖心を感じますが、パニック発作の不安は「死の恐怖を感じるほど」と表現され、なんの前ぶれもなく起こります。
珍しい疾患ではなく、一生涯で1,000人に6〜9人が発症するといわれている精神疾患です。
パニック発作は、心理的・環境的・遺伝的などの要因があるといわれていますが、原因は明確に解明されていません。
アメリカ精神医学会が作成したDSM(精神障害の診断・統計マニュアル)や、世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類(ICD-10)など、いくつかの診断基準にそって診断されます。
パニック障がいの主訴はパニック発作で、精神的・身体的に以下のような症状があらわれます。
【身体的症状】
◎胸部の不快感・窒息感
◎胃部の不快感・吐き気
◎めまい・ふらつき・振戦
◎発汗
◎動悸
◎ほてり
【精神的症状】
◎強い不安・恐怖感
◎死への恐怖
◎非現実感
◎自分を見失う恐怖
パニック障がいは発作を繰り返すうちに、いつ発作が起きるかわからない不安が強くなり、生活に支障をきたすようになります。
パニック障がいが進行する流れは、以下のとおりです。
①パニック発作
特別な要因もなくパニック発作が起きる
②予期不安
パニック発作を繰り返し発作への不安が強くなる
③広場恐怖
◎予期不安が強くなり不安な状況を避けようとする
◎外出・仕事・他者との関わりなどができなくなる
◎日常生活に支障をきたす
パニック障がいは明確な原因がないため、本人もパニック障がいとは気づかずに治療が遅れることがあります。
そのため、症状が進行し長期化すると、意欲低下やうつ病を併発する場合も少なくありません。
パニック障がいの治療は、薬物療法と精神療法が基本です。
薬物療法では、一般的にSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)などの抗うつ薬や、抗不安薬が用いられます。
精神療法では、認知行動療法で置かれている状況を客観的に把握できるよう支援します。
治療は、薬物治療でパニック発作を落ち着かせたのち、精神療法で日常生活の障がいになっている不安や恐怖心を取り除きます。
パニック障がいの看護は、基本的に以下のような手順で行います。
1.不安の程度やパニック発作の症状をアセスメントする
2.日常生活への影響をアセスメントする
3.生活環境を整える
パニック障がいを抱える方の不安の程度やパニック発作の症状は、人それぞれです。
そのため、まずは不安の内容や要因をアセスメントし、パニック発作の回数を減らすために支援します。
ご本人に対し、パニック発作時の対処法の説明も必要です。
パニック発作が落ち着いてきたら、予期不安や広場不安による日常生活への影響をアセスメントします。
さらに、アセスメントの結果をふまえ不安の要因を取り除き、生活環境を整えます。
パニック障がいを患う方は、些細なことが予期不安の要因や精神的な負担になりかねません。
そのため、パニック障がいを抱える方とのコミュニケーションは以下のポイントに気をつけましょう。
◎ゆっくりと話を傾聴する
◎相手を尊重する言葉がけをする
◎発作時は落ち着いた対応をする
不安が強いパニック障がいの方には、安心感を持ってもらうことが大切です。
ゆっくりと相手の話を傾聴し、相手の感情を否定せず尊重した言葉がけをしましょう。
パニック発作が起きたときは、ご本人と一緒に慌ててしまうと、不安を増強させてしまいます。
相手が混乱しているときは、わかりやすい言葉を選び、ゆっくりとした口調で対応しましょう。
パニック発作中は、背中をさする、深呼吸を促すなども効果的です。
パニック障がいの方が生活を送りながら治療をすすめるには、精神科訪問看護の活用も有効です。
ここでは、パニック障がいの方に対する精神科訪問看護のケア内容を紹介します。
パニック障がいは、再発率が高いといわれています。
また、ご本人も「再発するのではないか」と不安を抱え続けてしまうケースが少なくありません。
精神科訪問看護では、在宅生活を送りながら専門知識のある看護師が、再発予防の環境を整えます。
具体的には、内服管理やストレスを溜めない生活へのアドバイス、食生活のアドバイスをする場合もあります。
また、看護師が定期的に訪問しご本人の話を傾聴することで、精神的な安定を支援します。
症状が落ち着いてきたら、ご本人の生活スタイルと希望にあわせた自立支援をするのも精神科訪問看護のケア内容です。
たとえば、外出に強い予期不安がある方は、訪問看護師と一緒に散歩に行くなど、小さなことから不安を克服できるようにサポートします。
精神科訪問看護師は、社会資源の活用法の知識もあるため、利用者様にあわせて仕事復帰をサポートすることもあります。
パニック障がいの治療には、ご家族の理解や協力が必要です。
精神科訪問看護師は、家族がパニック障害の正しい知識を理解できるよう促し、ご本人との接し方のアドバイスもします。
また、ご家族自身も家族がパニック障がいになったことへの戸惑いや不安を感じている場合が多いため、ご家族の精神的サポートをするのも精神科訪問看護の大切な役割です。
実際に、パニック障がいの方に精神科訪問看護が介入した事例を紹介します。
【Sさんの場合】
Sさんは、人混みでパニック発作を起こすようになり、精神科を受診していました。
とくに、電車やエレベーターなど、人が集中する場所に対する予期不安が強く、会社に出勤できなくなり退社。
家に引きこもりがちになっていました。
【介入後】
精神科受診後より、Sさんは薬物療法と並行して、精神科訪問看護の介入による生活環境の整備や不安の克服に取り組みました。
Sさんは精神薬に対する抵抗感があり、薬を飲むのをためらう場合があったため、訪問看護では治療の見通しや薬の作用・副作用をしっかり説明し、安心して薬物療法に取り組める環境を整えました。
訪問を重ね、信頼関係を築くとともに、Sさんのパニック発作が落ち着いてきたころから、予期不安や広場恐怖を克服するためのサポートを開始。
自宅付近の散歩からはじめ、担当の訪問看護師とエレベーターに乗ってみる、公共交通機関をつかって買い物に行くなど、ご本人と訪問看護師が相談しながらステップアップを続けています。
パニック障がいは、適切な治療と再発予防が大切です。
パニック障がいの方が適切な治療を受けるためにも、看護師として疾患に対する正しい知識と看護の方法を知っておきましょう。
また、認知行動治療や再発予防には、精神科訪問看護が活用できます。
コルディアーレは、パニック障がいをはじめ、さまざまな精神疾患をお持ちの方の在宅生活をサポートしています。
精神科訪問看護師に興味がある方は、お気軽にお問合せください。