診療科に関わらず、患者さんの安全を確保すること、患者さんに安全な看護を提供することは看護師の基本的な役割であり責務です。
1999年に相次いだ患者取り違え事故や、医薬品の誤投与などの医療事故の発生以降、医療安全管理は国をあげて対策がとられ、日本看護協会でも積極的に医療安全管理推進のための取り組みが行われています。
今回は、精神科における医療安全管理の視点や看護師の役割を解説します。
精神科看護における安全管理は、精神疾患を抱える患者さんの特性から、下記の2点を理解しておかなければなりません。
◎患者さんの安全を確保するための安全管理
◎看護師の安全を確保するための安全管理
また、認知症の増加や入院患者さんの高齢化の影響もあるため、精神科の安全管理は一般科と共通する部分と精神科の特有の部分があります。
たとえば、精神科領域の患者さんは疾患の影響から、適切な判断ができない場合があるため患者さん自身だけでなく、他の入院患者さんや看護師の安全にも配慮した安全管理が必要になってきます。
一方で、精神科の看護が対象になる人の高齢化も進んでおり、転倒防止など一般科と同様の安全管理も必要です。
精神科の5つの安全管理について、詳しく解説します。
■自殺・自傷行為
自殺や自傷行為は、精神科で発生する医療事故の1/4を占めているといわれており、精神科の三大医療事故のひとつです。
精神科では、うつ病や統合失調症などの影響から自殺願望や希死念慮(漠然と死を願う状態)を抱く方もいます。
患者さんに自殺傾向が見られたとしても、患者さんの自由意志は尊重しなければならないため、身体拘束や薬物による身体的制御は好ましくないとされています。
そのため、看護師は患者さんの言動や精神状態を注意深く観察するとともに、危険物や危険箇所を排除し自殺・自傷行為の防止に努めなければなりません。
他害行為も精神科の三大医療事故のひとつです。
精神疾患を抱える患者さんのなかには、他者との関わりが苦手な方や、自分の感情のコントロールがうまくできない方がいます。
入院期間が長期になりがちな精神科では、共同生活を送る患者さん同士の折り合いが悪く、トラブルになる場合もあります。
また、他害行為は患者さんと看護師間でも起こりうるため、看護師は自分の身を守るための安全管理も理解しておかなければなりません。
転倒や誤嚥などの不慮の事故も精神科の三大医療事故のひとつです。
精神科では長期入院している患者さんが少なくないため、近年、患者層の高齢化により転倒や誤嚥のリスクは高くなっています。
また、精神疾患に関する治療薬になかには、ふらつきや振戦、すり足歩行などの副作用症状が見られる薬もあります。
精神科では、嚥下機能の低下ではなく適切な判断ができないために、異物を誤嚥するケースもあります。
そのため、精神科の不慮の事故は一般科と同じような転倒転落や誤嚥に対する安全管理の視点と、精神科特有の視点が必要です。
精神科は、内服薬の錠剤数が多いことから薬剤ミスのリスクが高いといわれています。
精神疾患の治療薬は複数種類に及ぶことがめずらしくないため、内服薬が複数種類あったり、錠剤数が多かったりすると、内服薬が少ない場合にくらべて確認する看護師の負担が重くなるからです。
とくに、症状が安定せず処方が変わりやすい患者さんや、長期入院していて看護師にも慣れがでてくる患者さんの投薬は、ミスが多くなりがちなため注意が必要です。
また、一般科と同様に看護師の人数が少なくなる夜勤帯は、投薬ミスも多くなりがちです。看護師は夜勤中のミスが増加する事実を理解し意識を高めるとともに、病棟全体で安全対策をとることも大切です。
精神科は離院事故のリスクが高いといわれており、実際に発生した無断離院事故のデータでも、一般科が2.9%なのに対し、精神科は14.5%と無断離院の発生頻度は高い結果となっています。
さらに、精神科に入院中の患者さんは疾患の影響から、離院後に予測がつかない行動をとる可能性もあるため、離院に対する安全管理は重要です。
なかには、任意入院ではない患者さんが不満を持ち、計画的・衝動的に離院をするケースもあります。
実際に看護の現場では、どのような安全管理がとられているのでしょうか。
看護師がおこなう安全管理の具体例を見てみましょう。
精神科病棟で看護師がおこなう代表的な安全管理は、鍵の管理です。
厚生労働省の調査によると、精神科病棟の6割以上が終日閉鎖病棟となっているため看護師は適切に鍵の管理をしなければいけません。
患者さんの精神状態を観察・アセスメントし危険行為のリスクを評価し、事前に危険行為を予防するのも大切な安全管理のひとつです。
危険物持ち込み防止のため、入院時に持ち物チェックをすることもあります。
また、病院で準備されている医療安全マニュアルや、危険事象が起きた場合のフローチャートなども事前に確認しておかなければなりません。
症状が落ち着いている方が多い精神科訪問看護の場合でも、安全管理は必要で、とくに看護師自身の安全確保を重視しなければなりません。
精神科訪問看護では基本的に利用者様の自宅を看護師が一人で訪問します。
そのため、利用者様のプライベートな空間に入る看護師は危険行為から身を守る対策を理解しておかなければならないからです。
たとえば、訪問時に危険を感じた際の退路を確保しておく、防犯ブザーを携帯するなど安全対策があります。
状況に応じて、2名体制で利用者様を訪問する場合もあります。
他職種との情報共有や、緊急時の報告・相談の手順も事前に理解しておかなければいけません。
精神科訪問看護の安全管理については、次の記事もご参照ください。
安全管理は、患者さんの安全だけでなく、看護師の安全を守るためにも重要な役割があります。
危険行為や不慮の事故、医療事故は起こりうる可能性があるものとして事前に理解し、事故防止・安全管理に努めなければなりません。
精神科領域の安全管理は、疾患の特徴から一般科とは異なる部分があることを理解しておきましょう。
精神科訪問看護ステーション・コルディアーレでは、看護師さんがやりがいを持ち、安心して仕事に取り組めるように、看護師の安全管理対策を徹底しています。
未経験の方でも入職後のオリエンテーションや同行訪問、各種研修で安全管理についての知識が学べます。
精神科訪問看護に興味のある方は、お気軽にお問合せください。