精神科領域の看護では、コミュニケーションをメインに精神疾患を患う方のケアをします。
精神疾患をお持ちの方のなかには、コミュニケーションが苦手な方もいらっしゃり、ケアする側は利用者様との接し方に悩むことが多いのではないでしょうか。
今回は、精神疾患を抱える方のコミュニケーションの特徴や接し方のポイントを解説します。
すぐに実践できるコミュニケーション技法も紹介していますので、参考にしてみてください。
令和4年に発表された厚生労働省のデータによると、精神疾患を患っている人は全国に約419万人で、約30人に1人が何らかの精神疾患を抱えていることになります。
現代社会において、なんらかの精神疾患を患っている方は珍しいとはいえないのです。
精神疾患を抱える方の特徴を知ることは精神科だけでなく看護全般に役立つでしょう。
精神障がいを抱える方は、複数の疾患を患っている場合や経過の途中で主病名が変わる場合もあり、障がいの要因となる疾患はさまざまです。
たとえば、うつ病を発症した方で症状が長引き、妄想や幻聴などの症状が現れるようになったため、統合失調症の診断が下される場合もあります。
そのため、主病名だけでその方の症状を看ることはできません。
そもそも、ひとつの精神疾患でも現れる症状は幅広く、その症状によって起こりうる日常生活の障がいは、その方の人間関係や生活環境により全く違うでしょう。
精神疾患の症状は気分の落ち込みや強い不安、幻覚や幻聴など、他人からわかりにくいことが特徴です。
精神的に不安定なこともあり、本人でさえも症状に気づいていない場合もあります。
また、医師の診察や看護師から症状を指摘されたとしても認めることができず、病識が薄い方もいるでしょう。
そのため、精神科領域の看護はコミュニケーションを通して本人の訴えを聞き、症状や障がいの観察をすることが大切になります。
精神疾患を患う方は、自分の気持ちや考えを表現するのが苦手な場合があります。
また、疾患の影響で警戒心が強かったり、関係ないことも自分に関連づけて考えたりすることがあり、他人とうまく人間関係を築くことが難しい方もいます。
もともとの性格上、コミュニケーションが苦手で他人とうまく関われないストレスから病気を発症したケースもあるでしょう。
そのため、家族や近隣住民、職場などで周りの方とトラブルになる方も少なくありません。
前項で解説した精神疾患の特徴をふまえたうえで、精神疾患をお持ちの方とのコミュニケーションのポイントを理解しておきましょう。
精神疾患の特徴や、コミュニケーションの留意点を理解していると、自分自身も疲弊せずに精神疾患をお持ちの方と関わることができます。
ただし、無理は禁物です。
もし、精神科看護や精神科訪問看護に疲れている、ストレスを感じている方は、次の記事も参考にしてみてくださいね。
精神疾患を持っている方は幻聴や幻覚、妄想などの症状を訴える場合がありますが、現実世界で起こっていなくとも、本人の主張は否定せず受け止めてください。
ただし、肯定するのも本人の妄想や幻覚症状を加速させる原因になる場合があるため、否定も肯定もせず受け止めるように努めましょう。
また、人間関係において相手は自分の内面を映す鏡です。
コミュニケーションを取り信頼関係を築くために、まずは自分自身が利用者様に心を開いてみてはいかがでしょうか。
精神障がいをお持ちの方は、警戒心が強くコミュニケーションが苦手な場合があります。
あせらず時間をかけてコミュニケーションを取り、信頼関係を構築していきましょう。
コミュニケーションは、ただ会話をするだけではありません。
相手に寄り添えば、表情やしぐさ、雰囲気などからも相手の気持ちを読み取ることができます。
訪問を重ね、利用者様の趣味を一緒に楽しむなど、同じ時間を共有しお互いの理解を深めてみてください。
統合失調症やうつ病など、代表的な精神疾患の症状や発生要因、脳や神経の病態や疾患の経過を正しく理解しておきましょう。
精神疾患は個別性が強く、症状や経過は人により大きく違うため、疾患名だけでは判断できません。
しかし、症状や発生要因、脳や神経の病態や起こりうる疾患の経過など、体表的な精神疾患の正しい知識があれば、利用者様の理解に役立ちます。
精神疾患をお持ちの方は、警戒心が強く訪問看護師が「どのような症状がつらいですか」とストレートに質問しても返答がない方もいます。
そのため、利用者様の発言だけでなく、コミュニケーションを取りながら声のトーンや表情などで利用者様の心の変化を観察しましょう。
また、看護師の「いつもと違う」感覚は大切です。
日頃から利用者様とのコミュニケーションを重ね、利用者様の日常を知っておくと、いつもと違うという変化に気づきやすくなります。
看護師として丁寧な対応は基本ですが、精神科訪問看護ではより丁寧な言葉使いや対応を心がけましょう。
精神科訪問看護で訪問するのは、利用者様の領域である自宅であるため、利用者様は看護師を自分のテリトリーに入ってきた人とみなします。
言動が気に入らないと、テリトリーから出ていってほしいと思う方もいるかもしれません。
また、精神疾患の影響から他人に攻撃的になる場合もあるため、看護師の言動が攻撃の対象にならないようにしなければなりません。
他人の家におじゃまするという意識を忘れず、言葉遣いや接遇マナーには気をつけましょう。
コミュニケーションをうまく取るには、相手に関心を寄せることが重要です。
コミュニケーションのテクニックを使い、関心を寄せていることを伝え、良好な関係を築きましょう。
身振り手振りや表情をまねるミラーリングや、話す速度や声のトーン、考え方を相手に合わせるペーシングは、自然に相手に共感している印象を与える代表的なコミュニケーション技法です。
相手に同調することで、相手の警戒心を取り除き良好な関係を築くのに役立ちます。
ただし、まねをしているのに気づかれると逆に不信感を与えてしまうので、自然に振る舞うようにしましょう。
バックトラッキングは、相手の話をオウム返しする技法です。
たとえば、「今日は朝起きたら調子が良かったです。」に対し「よかったですね。」で返すのではなく、「今日は調子が良いのですね!よかったです。」などと答えます。
バックトラッキングは、相手の話を要約し聞き返すことで、会話内容の確認や相手に共感していることを伝える効果があります。
相手の価値観を理解し、深く関わるためには「WHAT・WHY」の質問が有効です。
◎WHAT(なにが)を使った質問例
相手:「最近、読書を初めてみました。」
自分:「何がきっかけで読書を始めたのですか?」
◎WHY(なぜ)を使った質問例
相手:「私は庭いじりが趣味です。」
自分:「素敵な趣味ですね!なぜ庭いじりが好きなのですか?」
WHAT・WAYの質問は、相手に関心を持っていることを示すとともに、相手の発言を掘り下げてより深く相手を知ることができます。
精神疾患や精神障がいを持つ方の特徴を理解したうえで、適切なコミュニケーションを取りましょう。
利用者様とうまくコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことは、精神科領域の看護師としてのやりがいにもつながります。
精神科訪問看護に特化しているコルディアーレでは、ケーススタディなどを通して看護師としてのコミュニケーション能力を高める研修を取り入れています。
ご興味がある方は、お気軽にお問合せください。