コラム詳細
2024/10/07
autorenew2024/10/21
障がい者の労働時間に制限はあるのか?|適正な労働時間を設定するコツを解説します
「障がい者の労働時間に法的な制限ってあるものなの?」
「法的制限の範囲内で、障がい者の労働時間を設定したい!」
とお考えではありませんか?
結論から先に述べると、障がい者の労働時間に法的な制限はありません。
ただし、労働時間の「上限」については一般の労働者と同様に「労働基準法」にもとづく規定が適用されます。
また労働時間の「下限」については、障がい者雇用人数のカウントに関係するため、「障害者雇用促進法」を意識する必要があるのです。
労働時間の上限 | 1日8時間、週40時間を超えて労働してもらう場合は、一般の労働者と同様に「労働基準法」にもとづく規定が適用 |
労働時間の下限 | ・週20時間以上の労働をしてもらうことで、法定雇用率上「障がい者を1人雇用している」ことになる
※ただし障がい種別によっては、週10時間以上の労働で障がい者の雇用をカウントできるケースもあります。 |
このように障がい者の労働時間の上限・下限を決めるにあたって意識すべき法規定はあり、適切に労働時間を設定しなければ、以下のリスクが生じる可能性があります。
・障がい者雇用を実施したのに、障がい者雇用人数としてカウントされない
・36協定を結ばずに法外の時間外労働・休日勤務をさせた場合は、法律違反となり罰せられる
・「合理的配慮」にもとづいて上限の労働時間を決めないと、障がい者本人が体調を崩したり、最悪の場合、離職されてしまうおそれがある(職場に定着しない)
・職場に定着しないと、障がい者雇用として算定できないケースもあり得る |
そこでこの記事では、障がい者の労働時間の制限や設定方法について、以下の内容を解説します。
この記事を読むとわかること |
・障がい者の労働時間に法的制限はあるのかどうか
・障がい者の労働時間を適正に規定するために知っておくべき2つの法律 ・障がい者の労働時間に関する法律を考慮しないと発生するリスク ・障がい者従業員の労働時間を決める5つのポイント |
この記事を読むことで、障がい者雇用に法的制限があるのかどうか、どのような法律を意識すればいいのか分かるようになります。
そして実際に障がい者の労働時間を法規定を意識しながら決められるようになるでしょう。
ぜひ最後までお読みください。
【目次】
1. 障がい者の労働時間に法的制限はないが、適切な対処が必要
2. 障がい者の労働時間を適正に規定するなら「障害者雇用促進法」「労働基準法」を守る必要がある
3. 障がい者の労働時間に制限はない一方、法規定は考慮しないとリスクが生じる
4. 障がいのある従業員の労働時間を決める際の5つのポイント
5. 障がい者雇用の体制や制度を整備する余裕がない場合は外部サポートの利用がおすすめ
6. まとめ
結論、日本の法律において、以下のように障がい者の労働時間に法的制限はありません。
「障がい者は最低でも〇時間は労働時間を確保しなくてはならない」
「障がい者は〇時間以上は働かせてはならない」 |
障がい者特有の労働時間の制限はないため、「上限」については一般の労働者と同じ扱いとなります。
具体的には、1日8時間、週40時間を超えて労働してもらう場合は、一般の労働者と同様に「労働基準法」にもとづく規定が適用されるのです。
また法的に労働時間の上限がないとはいえ、障がい者の健康面や精神面を考えると、一般の労働者と同じように残業を依頼してしまうと、負荷がかかりすぎてしまう可能性もあるでしょう。
そして障がい者の労働時間の「下限」については、障がい者雇用人数のカウントに関係するため意識する必要があります。
というのも、障がい者の方に週20時間以上の労働をしてもらってはじめて、「障がい者を1人雇用している」ことになるのです。
ただし障がいによっては、週10時間以上の労働で障がい者の雇用をカウントできるケースもあります。
このように障がい者の労働時間に法的制限はないものの、上限・下限それぞれに意識するべき法規定はあります。
そのため「合理的配慮(※)」にもとづいて適切に労働時間を決める必要があるといえるでしょう。
※合理的配慮
障がい者が社会の中で出会う「困りごと」「障壁」を取り除くための調整や変更のこと。 詳しくは「【2024年4月より義務化】合理的配慮の考え方や企業がすべきこと」をご参考ください。 |
次の章では障がい者の労働時間を適正に規定するための、知っておくべき法律をご紹介します。
2.障がい者の労働時間を適正に規定するなら「障害者雇用促進法」「労働基準法」を守る必要がある
障がい者の労働時間に制限はないものの、適切な対処が必要であるとお伝えしました。
そこで2章では、障がい者の労働時間を適正に規定するために知っておくべき以下2つの法律について解説します。
障がい者の労働時間を適正に規定するために知っておくべき2つの法律 |
・障害者雇用促進法
・労働基準法 |
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1.障害者雇用促進法
1つめは「障害者雇用促進法」です。
障害者雇用促進法とは、一定の規模以上の企業に「定められた割合以上の障がい者を雇用しなければならない」と定め、障がい者が働ける機会を増やすことを目的とした法律です。
この法律では、以下のように障がい者雇用人数のカウント方法を労働時間と絡めて規定しています。
週の所定労働時間 | 30時間以上 | 20時間以上
30時間未満 |
10時間以上
20時間未満 |
身体障がい者 | 1 | 0.5 | ー |
重度身体障がい者 | 2 | 1 | 0.5 |
知的障がい者 | 1 | 0.5 | ー |
重度知的障がい者 | 2 | 1 | 0.5 |
精神障がい者 | 1 | 1 | 0.5 |
そのため、上記の所定労働時間を意識して自社の労働時間を規定しないと、「障がい者雇用を実施したのに、障がい者雇用人数としてカウントされなかった」といった事態になりかねません。
たとえば、身体障がい者の雇用を行った場合を例に考えてみましょう。
障がい者の労働時間に法的制限はないため、「週15時間の就労」にて労働時間を規定したとします。
この場合、法的に罰されることはもちろんありませんし、障がい者の方の体調を優先し、双方の合意のうえで労働時間を決めたのなら全く問題はありません。
しかし身体障がい者の雇用においては、週20時間未満の労働時間では企業の障がい者雇用人数としてはカウントされないという法規定があるのも事実。
企業には法定雇用率2.5%を達成する義務があるため、こうした労働時間とカウント数にまつわる規定は知っておいたほうが良いといえるでしょう。
2-2.労働基準法
2つめは「労働基準法」です。
労働基準法とは、労働条件に関する最低基準を定めた法律です。
この法律では、労働時間に関する下記内容が労働基準法第36条(いわゆる36協定)によって義務付けられています。
以下の場合には、労働組合などと書面による協定を結び、労働基準監督署に届け出ること
・従業員に1日8時間、週40時間を超えて働かせる場合 ・休日出勤などを命じる場合
協定を結ばずに、上記のような時間外労働・休日勤務をさせた場合は、法律違反となる。 |
これは全従業員に適用されるため、障がい者雇用の場合も意識しておくべき法律です。
【注意!】
ただし36協定さえ結べば長時間労働や休日出勤をお願いしてもいいというわけではありません。
障がい者雇用においては「合理的配慮」にもとづいて上限の労働時間を設定することが非常に重要です。
本人の障がいの特性や健康上の問題から、残業や長時間労働、休日出勤などが発生すると、体調を崩してしまったり、症状が悪化したりする可能性があります。
そのため、労働基準法を遵守していたとしても、合理的配慮にもとづいて労働時間を設定することが、障がい者雇用においては重要なのです。 |
3.障がい者の労働時間に制限はない一方、法規定は考慮しないとリスクが生じる
ここまでの情報で「障がい者の労働時間に法的制限はない」ということはご理解いただけたかと思います。
しかし法的な制限がないからといって適当に労働時間を決めていいわけではありません。
2章でお伝えした法律を考慮して、自社の障がい者雇用における労働時間を規定しないと、
・障がい者雇用を実施したのに、障がい者雇用人数としてカウントされない
・36協定を結ばずに法外の時間外労働・休日勤務をさせた場合は、法律違反となり罰せられる
・「合理的配慮」にもとづいて上限の労働時間を決めないと、障がい者本人が体調を崩したり、最悪の場合、離職されてしまうおそれがある(職場に定着しない)
・職場に定着しないと、障がい者雇用として算定できないケースもあり得る |
といったリスクがあるのです。
実際に内閣府「平成21年度3月内閣府委託調査」によると、以下のように障がい者の方が「差別に当たると考え、してほしくないこと」として、以下のように残業について回答しています。
・透析時間があるので3時頃退社しようとしたら、だから透析患者は、いやだ、一番忙しい時に帰るなど言われた(内部障害、40代、男性)
・職場での休憩時間は45分と決められていたが、仕事がこなせていないということで休憩時間を取らせてもらえないことが多かった。(何もしていなければすぐにサボっていると見なされた)(肢体不自由、20代、男性) |
出典:内閣府「平成21年度3月内閣府委託調査」
障がい者従業員にこのように感じさせてしまうと、長く定着して働いてもらうのは難しいでしょう。
したがって、先にお伝えした「障がい者雇用促進法」「労働基準法」はしっかり考慮して、自社の障がい者雇用における労働時間を決めるようにしましょう。
4.障がい者のある従業員の労働時間を決める際の5つのポイント
「障害者雇用促進法」「労働基準法」を考慮のうえ、障がい者従業員の労働時間を決めることが重要だとお伝えしました。
そこで4章では、そうした法律を意識しながら労働時間を決められるよう、以下5つのポイントをご紹介します。
障がい者従業員の労働時間を決める際の5つのポイント |
・障がいの種類、程度に応じて労働時間を柔軟に設定する
・適切な休憩時間を設定する
・適切な休暇を設定する
・相談窓口やサポート体制を整えておく
・適切な業務の切り出しを行う |
それぞれのポイントを見ていきましょう。
4-1.障がいの種類・程度に応じて労働時間を柔軟に設定する
1つめは「障がいの種類・程度に応じて労働時間を柔軟に設定する」ことです。
障がいの種類や程度はさまざまです。
たとえば、身体障がいのある従業員は「特定の動作」「長時間の作業」に負担を感じることがあります。
そのため柔軟な労働時間を設定することで、無理のない範囲で働くことができ、「働きやすい職場だ」と感じてもらえ、定着につながりやすくなるのです。
雇用する障がい者従業員と話し合い、
・働くうえでのこだわりや特性
・どのくらいの労働時間だと無理のない範囲で働けるのか
をヒアリングしておくと、労働時間が決めやすくなります。
まずは本人が無理なく働けるような時間で就労をスタートさせ、厳しい場合は労働時間を減らしたり、もっと働けそうな場合は増やしたりして、柔軟に対応すると良いでしょう。
4-2.適切な休憩時間を設定する
2つめは「適切な休憩時間を設定する」ことです。
労働基準法では「労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える」ことが定められています。
しかし障がいのある従業員の場合は「合理的配慮」にもとづいて、さらに追加の休憩時間を設けることを検討しましょう。
というのも、長時間の勤務によって疲労蓄積し、障がい者従業員が体調を崩してしまう恐れがあるのです。
そこで定期的な休憩をはさむことで、体力を回復し、業務への集中力を維持してもらうことができます。
たとえば、1時間おきに短時間の休憩を取り入れるなど、本人とも話し合いながら柔軟に休憩を取り入れるようにしましょう。
4-3.適切な休暇を設定する
3つめは「適切な休暇を設定する」ことです。
障がいのある従業員は定期的に通院やリハビリが必要なケースがあります。
そこで通常の休暇とは別に、障がいのある従業員向けの特別な休暇制度を導入することで、必要な医療ケアを受けながら働いてもらうことができます。
また体をゆっくり休め、次の出勤に向けて体調を整えてもらうこともでき、障がい者従業員にとって働きやすく、定着しやすい職場環境を提供できるようになるでしょう。
4-4.相談窓口やサポート体制を整えておく
4つめは「相談窓口やサポート体制を整えておく」ことです。
障がいのある従業員が労働時間に関する問題を相談できる窓口やサポート体制があると、本人が現場で直接言いづらいことも、言いやすくなり、トラブルが大きくなる前に解決できます。
その結果、離職を防ぎ、職場への定着につながるでしょう。
労働時間や働き方について相談できる窓口を設け、メンターや支援員を配置し、労働時間や業務負担に関する悩みを気軽に相談できる体制を整えておきましょう。
4-5.適切な業務の切り出しを行う
5つめは「適切な業務の切り出しを行う」ことです。
業務を適切に切り出すことで、規定した労働時間の中で障がいのある従業員が無理なく働けるようになり、
・時間外労働や長時間労働をさせてしまう
・業務がすぐ終わってしまい、規定の労働時間を余らせてしまう
などを避けることができるのです。
たとえば、適切な業務の切り出しを行えば、以下のように労働時間を適切に管理できるでしょう。
【具体例1:適切に業務を切り出して時間外労働や長時間労働を避ける】
Aさんは身体障がいのある従業員で、通常の業務としてデータ入力を担当している。
<適切に業務を切り出せていない場合> Aさんに一度に大量のデータ入力を任せてしまい、終わらせるために毎日1〜2時間の残業を強いられていた。
<適切に業務を切り出せた場合> Aさんの体力と集中力に合わせて、1日の業務量を適切に設定。 規定の労働時間内で終わらせることができるようになった。 その結果、定時で帰宅できるようになり、自身の健康状態を良好に保てるようになった。 |
【具体例2:適切に業務を切り出して規定の労働時間を余らせないようにする】
Bさんは知的障がいのある従業員で、単純作業が得意。 彼は普段、書類の整理やファイリングの業務を担当している。
<適切に業務を切り出せていない場合> 鈴木さんが朝のうちに書類整理を終えてしまい、その後の時間を持て余していた。 上司も次に何を任せるべきか分からず、鈴木さんが時間を無駄に過ごすことがあった。
<適切に業務を切り出せた場合> 書類整理に加えて、午後には簡単なデータ入力や物品の在庫チェックなどの業務を依頼した。 常にやるべきことがある状態にすることで、労働時間を効率的に使えるようになった。 |
障がい者雇用において、業務を切り出すためには、以下の流れに従って実施しましょう。
【あわせてお読みください】
障がい者雇用における業務を切り出し方については、以下の記事で詳しく解説しています。 ぜひあわせてお読み下さい。
|
5.障がい者雇用の体制や制度を整備する余裕がない場合は外部サポートの利用がおすすめ
障がい者の労働時間について社内規定を決める際にどう動けばいいのかをお伝えしました。
しかし、自社の中で障がい者雇用に向けた体制・制度を整備する余裕がないケースもあるのではないでしょうか。
そうした場合には、外部サポートの利用がおすすめです。
障がい者雇用に関する専門知識や経験を持つ外部サポートを利用することで、障がい者雇用に関する法律などから社内規定を作ることに頭を悩ませることなく障がい者雇用を進めることができます。
そして時間や工数を省き、スムーズに障がい者雇用を進めることができるでしょう。
障がい者雇用のサポート依頼先には、以下のような機関があります。
(1)全国のハローワーク
<おすすめの企業> 何から始めたらいいのかわからない企業
<悩みの例> 障がい者雇用や関連する法律について理解が不十分と感じている 障がい者の採用方法や適切な募集方法、面接の進め方がわからない |
(2)地域障害者職業センター
<おすすめの企業> 実践的なサポートを求める企業
<悩みの例> 従業員の障がい特性に合った業務が切り出せなくて困っている 障がい特性に応じた合理的配慮の提供方法がわからない |
(3)障害者就業・生活支援センター
<おすすめの企業> 就労と生活の両面でサポートが必要な障がい者を雇用する企業
<悩みの例> 従業員の生活リズムや健康管理の支援方法がわからない 障がいのある従業員の職場定着率が低迷しているが改善方法がわからない |
(4)障がい者の就業支援サポートサービスを行う民間企業
<おすすめの企業> 自社の状況に合わせた支援をしてほしい企業
<悩みの例> 自社の業務内容や職場環境に適した障がい者雇用の方法がわからない 自社の実情に合わせた障がい者の雇用率向上施策を提案してほしい |
上記の「おすすめの企業」「悩みの例」を参考にしながら、自社にとって最適な相談先を選びましょう。
障がい者の就業支援サポートサービスの利用ならコルディアーレ農園 |
私たちJSHは、障がい者と企業をつなぐ、農園型の障がい者雇用支援サービスを提供しています。
「コルディアーレ農園」とは、地方在住の障がいのある方と都心部の企業さまが雇用契約を結び、手厚いサポートのある農園で勤務する仕組みの事業です。
下記のように入社前から入社後まで、企業さまとともに障がい者雇用を推進できる仕組みを整えていきます。
入社後は業務サポート・定着支援サポート・送迎サポートの全てを揃え、企業さまと伴走できる環境を完備している点が大きな強みです。
企業さまの負担軽減や採用のミスマッチを防ぎつつ、障がいのある方がやりがいを持って業務ができる支援をぜひ私たちJSHにお手伝いさせてください。
障がい者雇用を検討中の企業様は、ぜひ一度JSHへご相談ください。
|
6. まとめ
この記事では障がい者の労働時間に制限があるのかどうか、どのような法律を意識すべきかなどを解説しました。
◆障がい者の労働時間に法的制限はないが、適切な対処が必要
◆障がい者の労働時間を適正に規定するなら「障害者雇用促進法」「労働基準法」を守る必要がある
◆障がい者の労働時間に制限はない一方、法規定は考慮しないとリスクが生じる
◆障がい者従業員の労働時間を決める際の5つのポイント
・障がいの種類・程度に応じて労働時間を柔軟に設定する
・適切な休憩時間を設定する ・適切な休暇を設定する ・相談窓口やサポート体制を整えておく ・適切な業務の切り出しを行う |
本記事が障がい者の雇用をご検討中の企業様の参考になれば幸いです。
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