コラム詳細
2024/10/02
autorenew2024/10/02
障がい者に関する法律一覧|雇用する企業が遵守すべき内容を解説
国が定めた法律の中で、障がい者に関連する法律は非常に多く存在しています。
数が多いからこそ、障がい者に関するそれぞれ法律について「要素だけ抜粋してまとめて解説している一覧を確認したい」という方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、障がい者に関連する法律の中でも、特に、一般の企業・事業者側が理解しておくべき法律について、重要ポイントを抜粋してまとめました。
以下は、今回紹介する10つの法律の要旨をコンパクトにまとめた表となります。*内容は法律のほんの一部となります
本記事では上記の10つの「障がい者に関連する法律」について、法律の概要はもちろん、法律における「障がい者」の定義や、企業がすべきことを分かりやすくまとめています。
関連する法律を「まとめて概要だけ理解したい」という方は、ぜひこの記事をご参考にしていただければ幸いです。
【注意】法律によって「障がい者」の定義が異なるため、注意しましょう。
それぞれの法律の概要説明に、その法律が示す「障がい者」の定義も載せています。 |
【目次】
1. 障害者基本法
2. 障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
3. 障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)
4. 障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)
5. 身体障害者福祉法
6. 知的障害者福祉法
7. 精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)
8. 発達障害者支援法
9. 児童福祉法
10. 障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)
11. まとめ
まず解説するのは、障がい者に関するさまざまな施策のベースとなる「障害者基本法」という法律です。この法律は名称が短く、正式名称も「障害者基本法」です。
1970年に成立した「心身障害者対策基本法」が前身となっている法律で、1993年に「障害者基本法」という名前に変わりました。
※障害者基本法の内容については、e-GOV法令検索「障害者基本法」を参考に記載しています。
1-1. 障害者基本法が定めている内容
障害者基本法では、全ての国民が「障がいの有無」によって分け隔てられることなく、相互に尊重し合いながら共生する社会の実現を目指しています。
障がいの定義を定義した上で、生活に関わるさまざまな分野で行わなければならない支援が規定されています(医療や介護、教育、住宅の確保、雇用の促進など)。また、障がい者の差別禁止についても2011年の改正で盛り込まれました。
1-2. 障害者基本法における「障がい者」の定義
障害者基本法においての「障がい者」の定義は、以下です。
障害者基本法における「障がい者」の定義
身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含む)、その他の心身の機能の障がいがあり、障がいや社会的障壁によって継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人のこと |
つまり、障害者基本法においては、いわゆる障害者手帳の所持者に限られません。
1-3. 障害者基本法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
障害者基本法を遵守する上で、一般企業側がすべきことをまとめると以下のようになります。
障害者基本法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
・障がいを理由として、差別や権利利益の侵害をしてはいけない(第4条) ・障がい者雇用の際に、障がい者の適切な雇用の機会を確保し、個々の特性に応じた適正な雇用管理を行い、雇用の安定を図るよう努めなければならない(第19条) |
障がいを理由に差別したり、雇用機会を確保しなかったりするのは障害者基本法に反することになるため注意しましょう。
2. 障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
障害者総合支援法は、障がい者が「基本的人権を持つ個人」として、尊厳にふさわしい日常生活や社会生活を営めるように福祉や支援を行うことについてまとめた法律です。正式名称は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」といいます。
前身となる「障害者自立支援法」を改正する形で、2013年に成立しました。
※障害者総合支援法の内容については、e-GOV法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」を参考に記載しています。
2-1. 障害者総合支援法が定めている内容
障害者総合支援法では、全ての国民が、障がい者などが自立した日常生活や社会生活を営める地域社会の実現に協力するよう努めるべきとしています。
そのためのサポートとして、介護や訓練、地域相談支援、医療費、補装具費の給付・支給などについての詳しい内容が定められています。
2-2. 障害者総合支援法における「障がい者」の定義
障害者総合支援法においての「障がい者」の定義は、以下です(第4条に記載あり)。
障害者総合支援法における「障がい者」の定義
・障がい者:身体障害者福祉法で規定する「身体障がい者」、知的障害者福祉法で規定する「知的障がい者」のうち18歳以上である者、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律で規定する「精神障がい者」のうち18歳以上である者、ならびに治療方法が確立していない疾病などで主務大臣が定める障がいの程度を持つ人のうち18歳以上の者 ・障がい児:児童福祉法で規定する「障がい児」のこと |
参考:e-GOV法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
つまり、障害者総合支援法においては、いわゆる障害者手帳を所持する方などが、支援される対象となる「障がい者」に当たります。
2-3. 障害者総合支援法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
障害者総合支援法は主に、障がい者が受けられる福祉やサポートの具体的な内容が定められた法律であるため、一般企業がこの法律を遵守するためにすべきことは特にありません。
ただし、障害者総合支援法の目的が「障がいの有無にかかわらず、国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与すること」であるため、障がい者の権利や福祉を尊重して、企業としても社会的責任を果たす姿勢を示すことが重要です。
3. 障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)
障害者差別解消法は、障がいのある方への不当な差別的取扱いの禁止と「合理的配慮の提供」を求める内容の法律です。正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」です。
障害者差別解消法は最近改正され、2024年4月1日施行分から「合理的配慮の提供」について、事業者に対する努力義務が義務へと変更になったことでも話題です。
※障害者差別解消法の内容については、e-GOV法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」を参考に記載しています。
なお、ここでは障害者差別解消法の要旨のみ説明しますが、さらに詳しく知りたい方は別記事の「障害者差別解消法とは?事業者に義務化された合理的配慮も詳しく解説」もぜひ参考になさってください。
3-1. 障害者差別解消法が定めている内容
障害者差別解消法では、主に、「(1)不当な差別的取扱いの禁止」と「(2)合理的配慮の提供」についての内容が定められています。
「不当な差別的取扱いの禁止」とは、障がいを理由に不当に差別するなどの行為をしてはいけないということです。例えば、「タクシー事業者が、障がいを理由に乗車を拒否する」「不動産業者が、障がいを理由に物件の紹介をしてくれない」などが差別に該当します。
一方、「合理的配慮の提供」とは、障がいのある方から「バリアを取り除くために必要な対応」を求められた場合かつ「その対応に必要性がある」場合に、負担が重すぎない範囲で対応することをいいます。
例えば、「耳が聞こえにくい方の求めに応じて筆談で接客する」「視力に障がいがある方の求めに応じて、座席を配慮して決める」などが該当します。
以前まで、事業者による「合理的配慮の提供」は努力義務でしたが、2024年4月1日から施行となった改正法では義務化されました。
3-2. 障害者差別解消法における「障がい者」の定義
障害者差別解消法においての「障がい者」の定義は、以下です(第2条に記載あり)。
障害者差別解消法における「障がい者」の定義
身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含む)、その他の心身の機能の障がいがある者であって、障がい及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者のこと |
参考:e-GOV法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
つまり、障害者差別解消法においては、障がい者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない点に留意が必要です。
3-3. 障害者差別解消法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
障害者差別解消法を遵守するために企業・事業者がすべきことは以下です。
障害者差別解消法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
(1)事業者は、その事業を行うにあたって、障がいを理由として障がい者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない (2)事業者は、その事業を行うにあたって、障がい者から「社会的障壁の除去」を求められた場合、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、状況に応じてその社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない (3)行政機関や事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない(努力義務) |
「(1)不当な差別的取扱いの禁止」の例は、例えば以下のようなものです。
・タクシー事業者が、障がいを理由に乗車を拒否する
・不動産業者が、障がいを理由に物件の紹介をしてくれない ・施設やお店が、障がいを理由に利用を断る(正当な理由がある場合には認められる) |
また、「(2)合理的配慮」をしなければならないケースには、以下のようなものがあります。ただし、それが必要な場合かつ本来の業務に付随するものであり、負担が重すぎない範囲で対応できる場合に、対応することが求められます。
・障がい者から「社会的障壁の除去」を求める意思表明があった場合
・必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られる場合 ・障がいのない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものである場合 ・事務、事業の目的、内容、機能の本質的な変更には及ばない場合 ・その提供に伴う負担が過重でない場合 |
事業者がすべき「合理的配慮の提供」については、「どこまで対応すべきか」「どのような判断をすればいいのか」など、線引きが難しい問題となります。まだ事業者への義務化が始まったばかりであり、これから議論が進んでいくと考えられます。
合理的配慮の提供については、以下の記事もぜひ参考になさってください。
・【2024年4月より義務化】合理的配慮の考え方や企業がすべきこと
・障がい者雇用における合理的配慮とは?障がい別の事例や進め方を解説
・合理的配慮の具体例まとめ|場面別・障がい別に提供のポイントを紹介
障害者雇用促進法とは、障がい者の職業安定を図ることを目的とした法律で、正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」です。
一定規模(常用労働者数40人)以上の企業に対する雇用義務などを定めた法律であり、障がい者を雇用している企業や、常用労働者数40人以上の規模の企業は必ず確認しておくべき法律です。
※障害者雇用促進法の内容については、e-GOV法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」を参考に記載しています。
なお、ここでは障害者雇用促進法の要旨のみ説明しますが、さらに詳しく知りたい方は別記事の「【2024年】障害者雇用促進法とは?押さえるべき改正内容も解説」もぜひ参考になさってください。 |
4-1. 障害者雇用促進法が定めている内容
障害者雇用促進法では、主に、障がい者の雇用の促進や定着を図るために、一定規模以上の企業に対して、「定められた割合以上の障がい者を雇用する義務」を定めています。
具体的には、障害者雇用促進法の第43条により、企業は「法定雇用率」以上の割合で障がい者を雇用しなければならないことが規定されています。
2024年現在の一般企業の法定雇用率は2.5%なので、40人以上の企業に雇用義務が発生します。従業員数が40人の会社は障がい者を1人以上雇用する義務があり、100人ならば2人、500人なら12人などと割合に応じて雇用義務が発生します(小数点以下は切り捨て)。
【雇用する必要のある障がい者数の人数の例(一般企業の場合)】
従業員数39人(対象外) | 39人×2.5%=0.975人
※1人未満なので、障がい者を雇う義務はない |
従業員数40人 | 40人×2.5%=1人 |
従業員数100人 | 100人×2.5%=2.5人→小数点以下は切り捨てなので、2人 |
従業員数500人 | 500人×2.5%=12.5人→小数点以下は切り捨てなので、12人 |
従業員数1,000人 | 1,000人×2.5%=25人 |
従業員数5,000人 | 5,000人×2.5%=125人 |
※国・地方公共団体など一定の特殊法人、教育委員会の法定雇用率は、別途定められています。
なお、法定雇用率は2026年7月から2.7%に引き上げられる予定となっております。法定雇用率が引き上げられると、雇うべき人数も今より多くなります。
また、こうした法定雇用率に応じた雇用義務に関連して支給または徴収される助成金・納付金などについても法律で規定されています。
【障害者雇用促進法で規定されている調整金や給付金の概要】
障害者雇用調整金 | 100人を超える従業員がいる企業が、法定雇用率を達成した場合に支給される |
障害者雇用納付金 | 100人を超える従業員がいる企業が、法定雇用率が達成できない場合に徴収される |
特例給付金 | 週20時間未満で障がい者を雇用した場合に支給される |
報奨金 | 100人以下の企業が、一定数の障がい者を雇用した場合に支給される |
在宅就業障害者特例調整金 | 在宅で働いている障がい者を雇用した場合に支給される |
4-2. 障害者雇用促進法における「障がい者」の定義
障害者雇用促進法においての「障がい者」の定義は、以下です(第2条に「用語の意義」として記載あり)。
障害者雇用促進法における「障がい者」の定義
(1)障がい者:身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。 (2)身体障がい者:障がい者のうち、身体障害がある者であつて別表に掲げる障害があるものをいう。 (3)重度身体障がい者:身体障がい者のうち、身体障害の程度が重い者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。 (4)知的障がい者:障がい者のうち、知的障害がある者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。 (5)重度知的障がい者:知的障がい者のうち、知的障害の程度が重い者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。 (6)精神障がい者:障がい者のうち、精神障害がある者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。 |
参考:e-GOV法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」
障害者雇用促進法においては、障がい者の定義はかなり厳密に決められています。障がい者には「身体障がい者」「重度身体障がい者」「知的障がい者」「重度知的障がい者」「精神障がい者」の5つがあり、それぞれについて法定雇用率を計算するための人数の数え方に影響があるので注意しましょう。
また、いずれも障害者手帳等で決まった定義に該当している必要があります。詳しくは、「合理的配慮の具体例まとめ|場面別・障がい別に提供のポイントを紹介」の記事もぜひご参照ください。
4-3. 障害者雇用促進法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
障害者雇用促進法を遵守するために企業・事業者がすべきことは以下です。
障害者雇用促進法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
(1)法定雇用率以上の割合で、障がい者を雇用しなければならない (2)障がい者を解雇する場合には「解雇届」を提出しなければならない (3)障がい者の雇用状況を毎年報告しなければならない (4)障がい者を5人以上雇用している企業は、障がい者職業生活相談員を選任しなければならない |
2024年時点で従業員数が40人以上いる企業は障がい者雇用義務があり、雇用状況の報告義務もあります。また、2026年7月からは法定雇用率が上がるのに従って、従業員数が37.5人以上の企業に義務が発生します。
従業員の数が増加しており今後雇用義務が発生しそうな企業も、早めに障がい者雇用について準備、対策をしておくことをおすすめします。
身体障害者福祉法は、身体障がい者の自立と社会経済活動への参加を促進するための法律です。この法律名は短く、正式名称も同じ「身体障害者福祉法」です。
障がい者には大きく分けて「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」の3つがありますが、この法律はこのうち「身体障がい者」に焦点を当てたものとなっています。
※身体障害者福祉法の内容については、e-GOV法令検索「身体障害者福祉法」を参考に記載しています。
5-1. 身体障害者福祉法が定めている内容
身体障害者福祉法では、主に、身体障がい者の自立や社会経済活動への参加の機会を確保するために、国や公共団体、国民がすべき責務についての内容が定められています。
具体的には、「身体障害者手帳」の交付についての具体的な内容や、身体障がい者に対する更生援護(自立と社会経済活動への参加を促進するための援助や保護)の具体的な措置、障がいを除去・軽減するための医療について、補装具の給付などについての規定が書かれています。
5-2. 身体障害者福祉法における「身体障がい者」の定義
身体障害者福祉法においては、「身体障がい者」について、第4条で以下のように規定されています。
身体障害者福祉法における「身体障がい者」の定義
別表に掲げる身体上の障がいがある18歳以上の者で、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたもの |
つまり、身体障害者福祉法においては、身体障がい者は、身体障害者手帳の所持者と明確に限定されていることが分かります。
5-3. 身体障害者福祉法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
身体障害者福祉法は主に、身体障がい者の定義や国や公共団体による支援や給付などの内容が規定されているもので、一般企業がこの法律を遵守するためにすべきことは特にありません。
ただし、身体障害者福祉法の目的が「身体障がい者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、身体障がい者を援助し、必要に応じて保護し、福祉の増進を図ること」である以上、身体障がい者の権利や福祉を尊重して、企業としても社会的責任を果たす姿勢を示すことが重要です。
企業が身体障がい者を雇用する場合や、身体障がい者にサービスを提供する場合は、社会経済活動に参加しようとする努力に対して、協力するように努める必要があります。
知的障害者福祉法(正式名称も同じ「知的障害者福祉法」)は、「障害者基本法」の基本的な理念に則った上で、知的障がい者の自立と経済活動を促進させるための法律です。
障がい者は大まかに3種類に分けることができ、「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」がありますが、この法律はこのうち「知的障がい者」に焦点を当てたものとなっています。
※知的障害者福祉法の内容については、e-GOV法令検索「知的障害者福祉法」を参考に記載しています。
6-1. 知的障害者福祉法が定めている内容
知的障害者福祉法では、主に、知的障がい者への援助や保護、福祉についての内容が定められています。
具体的には、知的障がい者本人や介護を行う人に対する厚生援護(援助と必要な保護のこと)や、自治体が設置する福祉事務所や知的障害者更生相談所の役割、障害福祉サービスや障害者支援施設の内容、一連の措置に対する費用負担などについて規定されています。
6-2. 知的障害者福祉法における「知的障がい者」の定義
知的障害者福祉法においては、「知的障がい者の定義」に該当する条文はなく、「このような人が知的障がい者に該当する」という明確な情報は記載されていません。
そのため、知的障害者福祉法で規定されている福祉や支援のサービスを受ける際に、適用される基準が地方自治体ごとに少しずつ異なってしまっているのが現状となっています。
6-3. 知的障害者福祉法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
知的障害者福祉法は、主に、国や市町村、福祉・支援サービスによる厚生援護や給付の内容などが規定されているものであり、一般企業がこの法律を遵守するためにすべきことは特にありません。
ただし、知的障害者福祉法の目的が「知的障がい者の自立と社会経済活動への参加を促進する」である以上、企業としてもそれらをサポートするよう務めなければなりません。
特に、企業が知的障がい者を従業員として雇用する場合や、知的障がい者にサービスを提供する場合には、知的障がい者が社会経済活動に参加しようとする努力に対して、協力するように努める必要があります。
7. 精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)
精神保健福祉法(正式名称は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」)は、「障害者基本法」の基本的な理念に則った上で、精神障がい者の医療と保護、健康の増進を目的とした法律です。
障がい者には大きく分けて「(1)身体障がい者」、「(2)知的障がい者」「(3)精神障がい者」の3つがありますが、この法律はこのうち「精神障がい者」に焦点を当てたものとなっています。
精神障がい者に関連する法制度は古くは1900年から存在していましたが、何度か名称や内容の変遷があり、1995年から現在の「精神保健福祉法」という名称になりました。
また、最近でも2024年に改正があり、精神科病院における虐待防止に向けた取り組みの推進などが新たに加わっています。改正法は2026年4月から施行となります。
※精神保健福祉法の内容については、e-GOV法令検索「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」を参考に記載しています。
7-1. 精神保健福祉法が定めている内容
精神保健福祉法では、主に、精神疾患の発生の予防・早期発見をすることや、国民の精神的健康の保持・増進に努めること、精神障がい者の福祉を増進するために必要な体制や具体的な制度などについてが記載されています。
具体的には、以下のような事項について規定されています。
・都道府県が設置する精神保健福祉センターについて
・都道府県が設定する地方精神保健福祉審議会及び精神医療審査会について
・精神保健指定医、登録研修機関、精神科病院及び精神科救急医療体制について
・登録研修機関や精神科病院の設置、精神科救急医療の確保について
・精神障がい者の入院や医療保護、訪問支援について
・精神障がい者に対する虐待の防止について
7-2. 精神保健福祉法における「精神障がい者」の定義
精神保健福祉法においての「精神障がい者」の定義は、以下です(第5条に記載あり)。
精神保健福祉法における「精神障がい者」の定義
統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障がいその他の精神疾患を有する者 |
参考:e-GOV法令検索「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」
7-3. 精神保健福祉法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
精神保健福祉法は、主に、精神障がい者の定義や受けられる福祉サービスの内容、国や自治体、精神科病院が行うべき対応などについて規定されているものであり、一般企業がこの法律を遵守するためにすべきことは特にありません。
ただし、精神保健福祉法第3条の「国民の義務」として、「精神障がい者に対する理解を深めること」や「精神障がい者がその障害を克服して社会復帰をし、自立と社会経済活動への参加をしようとする努力に対しての協力(努力義務)」が定義されています。
そのため、企業・事業者も、精神障がい者が社会経済活動に参加しようとする努力に対して、協力するように努める必要があります。
発達障害者支援法(正式名称も同じ「発達障害者支援法」)は、発達障がい者の社会的な支援体制の確立を目指すための法律です。
発達障がいとは、自閉症やアスペルガー症候群など、生まれつきの「脳機能」の発達に偏りがあり、社会生活に困難が発生する障がいをいいます。
※発達障害者支援法の内容については、e-GOV法令検索「発達障害者支援法」を参考に記載しています。
8-1. 発達障害者支援法が定めている内容
発達障害者支援法では、主に、以下のような内容が定められています。
・発達障がいを早期に発見するための制度
・発達支援を行うことに関する国・地方公共団体の責務
・学校教育における発達障がい者への支援
・発達障がい者の就労の支援
・発達障害者支援センターの指定など
8-2. 発達障害者支援法における「発達障がい者」の定義
発達障害者支援法においての「発達障がい」と「発達障がい者」の定義は、以下です(第2条に記載あり)。
発達障害者支援法における「発達障がい者」の定義
・「発達障がい」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの ・「発達障がい者」とは、発達障がいがある者であって、発達障がい・社会的障壁により日常生活や社会生活に制限を受けるもの ・「発達障がい児」とは、発達障がい者のうち十八歳未満のもの |
8-3. 発達障害者支援法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
発達障害者支援法は、主に、発達障がい者に対する国や地方公共団体の責務について定められているものであり、一般企業がこの法律を遵守するためにすべきことは特にありません。
ただし、発達障害者支援法第4条の「国民の義務(努力義務)」として、「個々の発達障がいの特性や障がいに関する理解を深めること」や「発達障がい者の自立・社会参加への協力」が期待されています。
また、発達障がいを持つ従業員を雇用する場合には、「個々の能力を正当に評価すること」「適切な雇用機会を確保すること」「特性に応じた適正な雇用管理を行って雇用安定を図ること」が努力義務として求められます。
(就労の支援)
第十条3 事業主は、発達障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の発達障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。
|
発達障がい者は、分野によって得意・不得意が現れやすい傾向があるため、特性に応じた適正な配置が重要となります。
発達障がい者の雇用については、別記事「発達障がい者(ADHD・自閉症等)の雇用ポイントー特性や定着率アップの方法を解説ー」もぜひ参考になさってください。
児童福祉法(正式名称も同じ「児童福祉法」)とは、18歳未満の子ども(=児童)の福祉と権利の保障、それに対する国民や国・地方公共団体の責任を定めた法律です。
この法律自体は「障がいがある子ども」に限定した内容ではなく、全ての子どもを対象としたものです。しかしながら、児童福祉法の中で「障がい児」の定義が定められていたり、障がい児に対する福祉や支援についてのさまざまな取り決めなどが規定されていたりするため、障がいを持つ子どもやその親にとって重要な法律といえます。
※児童福祉法の内容については、e-GOV法令検索「児童福祉法」を参考に記載しています。
9-1. 児童福祉法が定めている内容
児童福祉法では、「子どもの権利条約」(児童の権利に関する条約)の精神に基づいて、子どもの権利を守るための保護者、国民、国・地方公共団体の義務を定めています。
具体的には、福祉の保障や居宅生活の支援、相談窓口、要保護児童の保護措置などの詳細が規定されています。
また、2024年施行の改正ポイントとして、以下が挙げられます。
・児童虐待防止・児童相談所の体制強化
・包括的な子育て支援強化(こども仮定センターの設定など)
・18歳〜22歳の自立支援強化
9-2. 児童福祉法における「障がい児」の定義
児童福祉法においての「障がい児」の定義は、児童福祉法の第4条に以下のように定められています。
児童福祉法における「障がい児」の定義
・身体に障がいのある児童、知的障がいのある児童、精神に障がいのある児童 ・または、治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病で、障害者総合支援法の定義にも合致し、程度も同程度である児童のこと |
9-3. 児童福祉法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
児童福祉法は、障がい児に限らず、全ての子どもの福祉と権利を保障するために制定されている法律であり、一般企業がこの法律を遵守するためにすべきことは特にありません。
ただし、サービスの対象者が子どもである事業を手掛けている企業・事業者であれば、この児童福祉法にのっとって、子どもの健やかな成長や発達、自立をサポートする責務が問われます。
子どもに関わる事業を手掛けている場合は、法律の条文にも目を通して、児童福祉法を遵守していく必要があります。
10. 障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)
障害者虐待防止法とは、障がい者の尊厳を守り、自立・社会参加の妨げとならないよう、障がい者に対する虐待を防止するための法律です。正式名称は「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」です。
障がい者の世話をする「養護者」による虐待の禁止はもちろん、障がい者が利用する施設や雇い主による虐待についても規定があるため、障がい者を雇用する企業はしっかり内容を把握しておく必要があります。
※障害者虐待防止法の内容については、e-GOV法令検索「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」を参考に記載しています。
10-1. 障害者虐待防止法が定めている内容
障害者虐待防止法は、障がい者への虐待が起こらないための予防や早期発見のための取り組み、障がい者を「養護する人」や「使用者」に対して支援措置を講じることなどを定めたものです。
法律における「使用者」というのが、障がい者を雇用する企業や事業者のことを指します。
障害者虐待防止法で定めている具体的な内容をまとめた表が以下です。
障がい者虐待の禁止 | 障がい者に対する身体的・精神的な虐待、性的虐待、経済的な搾取などを禁止する |
障害者虐待相談窓口の設置 | 政府・地方公共団体は、障害者虐待相談窓口を設置し、必要な支援を提供する |
虐待の通報義務 | 虐待の事実を知った者は速やかに通報する義務がある
通報を受けた機関は適切な対応を行う |
虐待防止計画の策定 | 介護や支援を行う事業者は、虐待防止のための計画を策定し、実施しなければならない |
虐待の事実確認と支援 | 虐待の事実が確認された場合、速やかに被害者への支援を行い、加害者に対しては再発防止のための対策を取る |
教育と啓発 | 障がい者虐待の防止に向けた啓発活動や職員の教育を推進し、意識の向上を図る |
このように、障害者虐待防止法の内容は、国・自治体や支援サービス以外にも、障がい者を雇用する「使用者」や、一緒に働く従業員にも関わる内容であることが分かります。
10-2. 障害者虐待防止法における「障がい者」の定義
障害者虐待防止法においての「障がい者」の定義は、障害者虐待防止法の第2条第1号において、「障害者基本法第2条第1号に規定する障害者」と同じとされています。
そのため、障害者虐待防止法の定義は以下となります。
障害者虐待防止法における「障がい者」の定義
身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含む)、その他の心身の機能の障がいがあり、障がいや社会的障壁によって継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受ける状態にある人のこと |
参考:e-GOV法令検索「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」
つまり、障害者虐待防止法においては、障害者基本法の定義と同様に、障害者手帳の有無に限らず、広い意味として定義されていることが分かります。
10-3. 障害者虐待防止法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
障害者虐待防止法では、障がい者を雇用する立場にある企業や事業者を「使用者」と定義した上で、第4章にて「使用者による障害者虐待の防止」について具体的な内容が規定されています。
障害者虐待防止法を遵守するために企業・事業者がすべきこと
(1)障がい者を雇用する事業主は、労働者の研修の実施や、障がい者本人・家族からの苦情の処理の体制の整備、職場での障害者虐待の防止などの措置を講ずるものとする (2)事業主による障がい者虐待を発見した場合は、速やかに通報しなければならない |
大前提として、障害者虐待防止法においては「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない。」としています。
障がい者を雇用している企業・事業者は、職場での虐待を行うことはもちろん、見逃すこともしてはいけません。また、虐待を防止する措置も講ずるべきです。
障がい者への虐待についてさらに詳しく知りたい方は、「障がい者への『虐待』に当てはまるのはどんな行為?障がい者雇用における虐待の届け出データを解説」の記事もぜひご覧ください。
11. まとめ
本記事では「障がい者に関連した法律一覧」をまとめて解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。
法律の略称 | 概要 | 企業がすべきこと(抜粋) |
障害者基本法 | 各法のベースとなる法律 | ・差別の禁止
・障がい者の適切な雇用の機会の確保 |
障害者総合支援法 | 障がい者の福祉・支援を規定 | ー |
障害者差別解消法 | 障がい者差別の解消を推進する法律 | ・不当な差別的取扱いの禁止
・合理的配慮の提供 (2024年~法的義務に変更) |
障害者雇用促進法 | 障がい者の職業安定を図る法律 | ・法定雇用率(2.5%)以上の割合での障がい者雇用 |
身体障害者福祉法 | 身体障がい者に関する法律 | ー |
知的障害者福祉法 | 知的障がい者に関する法律 | ー |
精神保健福祉法 | 精神障がい者に関する法律 | ー |
発達障害者支援法 | 発達障がい者に関する法律 | ・適切な雇用機会の確保
・能力の正当な評価など |
児童福祉法 | 障がい児に関する法律 | ー |
障害者虐待防止法 | 障がい者虐待を防止する法律 | ・虐待の防止や通報、防止措置の整備など |
障がい者を雇用する立場にある方は、本記事を参考に、関連する法律をしっかりと遵守した上で雇用を進めていきましょう。何かサポートが必要な場合は、ぜひお気軽にJSHまでご相談ください。
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