
精神科看護師が精神障害者の基礎知識と接し方を解説!職場に定着するためのコツ
本記事は、弊社(株式会社JSH)が先日開催したセミナーのスライドの内容を元に、コラム記事化したものになります。同セミナーでは、精神科訪問看護サービスなどを提供する弊社の在宅医療事業グループの執行役員で、現役の精神科訪問看護師である安松大輔が講師を担当しました。
弊社・在宅医療事業グループを管轄する安松大輔の略歴
株式会社JSH 執行役員(在宅医療事業グループ統括)。看護師。
精神科に特化した訪問看護ステーション コルディアーレの運営に携わる。現在も訪問看護の現場でご利用者様に向けて看護を行っている。また、研修などの教育や、各関係機関との情報共有、関係調整などにも従事。
同セミナーでは、障害者雇用においてよく課題として挙げられる精神障害者に対しての接し方をテーマにしたものになります。弊社(株式会社JSH)は、障害者雇用サポートサービスの他に、精神科に特化した訪問看護サービスを行っております。精神科の在宅医療に関する知見を持つ弊社の現場の看護師が、障害者雇用における精神障害者について解説いたしました。
- 精神障害者に関しての知見がなく、どう接していいのかわからない
- これから、精神障害者の雇用をする予定がある
などの悩みを持つ障害者雇用担当者の方に役立てて頂ける内容になっています。是非、ご覧ください。
精神障害者とは?精神障害の代表的な5つの特徴
障害が見えづらい
- 精神疾患、てんかん、発達障害等は脳神経の機能に異常が出る障害
- 外見で判断できない⇒障害の理解を難しくしている要因
自分自身で障害を把握しにくい
- 障害を認識、理解する脳に障害がある為、自分自身で把握することが難し
い
中途の障害が多い
- 多くの精神障害は青年期以降に発症する為、障害を受ける前の自分自身のイメージが残っており、障害を持っている現時点の自分自身を受け入れることが困難
要因となる疾患が多様
- 精神障害には、統合失調症、気分障害、不安障害、依存症などの精神疾患、発達障害、認知症、てんかん等、要因となる疾患が多く、障害のある個人によって障害となる部分が違う(個別性が強い)
疾病と障害が併存していることが多い
- 医療面から見た「疾病」の側面と、生活面から見た「障害」の双方を併せ持っている
- 疾病が悪化すると障害が重くなり、疾病が回復すると障害が軽くなるというように、相互に影響を与えあっている
主な精神障害とその特徴:統合失調症、うつ病、双極性障害、てんかん、不安障害
統合失調症
- 最初にこの病気を論文にまとめたスイスの精神医学者・ブロイラー博士が提唱した病名
- 考え方、感情をまとめて総合的に判断したり、心の調和を保つことができなくなった状態を示し、幻覚や妄想という症状が特徴的な精神障害
具体的には、イライラして人にあたってしまったり、些細なことで怒ってしまったり、優先順位がつけられず、何から手をつければよいかわからなくなるようになります。
他にも、何をするにもおっくうになり、体力がなくなる、言葉がうまく話せなくなり、相手に伝わりにくいなどの症状も見られます。
うつ病
- 気分障害の一つ
- 気分がひどく落ち込んだり何事にも興味を持てなくなったり、おっくうだったり、なんとなくだるかったりして強い苦痛を感じ、日常の生活に支障が現れるまでになった状態
- 「憂うつである」「気分が落ち込んでいる」などと表現される症状が非常に重い状態の障害
双極性障害
- うつ病とほとんど同じ状態に加え、うつ状態とは対極の躁状態も現れ、これらを繰り返すという慢性の病気で、気分障害に分類されている障害
- 主な特徴:そう状態とうつ状態を繰り返す
てんかん
- 脳神経の一時的な過剰放電による痙攣や意識の障害を伴う発作を引き起こす
- 発作は一時的なものですが、繰り返し起こり、頻度や発作の状態には個人差がある
- 症状としては全身が痙攣して意識を失うケースから、身体の一部が痙攣するケースまでさまざま
- 発作以外にも、認知機能障害、人格変化(些細なことに固執する、怒りやすい等)を伴う場合がある
また、よく誤解されるてんかんは、てんかん発作は、必ずけいれんするわけではありません。
非けいれん発作として、意識が障害されて動作が停止するだけの発作(欠神発作)や、表情が変化し視線が鋭くなってから、身体をまさぐったり、舌なめずりしたり、歩き回ったりする発作(複雑部分発作)があります。
不安障害
- パニック障害
- 予期しないときに激しい動悸などの発作があり、また発作が起こるのではないかという不安にかられ、症状が起きた時に助けが得られないと感じる場所を避けるという不安障害の1つ
- 不安症
- 強迫性障害
- 強迫観念と強迫行為に特徴づけられる不安障害の一つ。欧米の同障害者からの推計で日本にも100万人強が同障害と考えられます
- 外傷後ストレス障害(PTSD)
- 全般性不安障害
その他
薬物依存症
- 薬物への強い欲求をコントロールできずに薬物を使ってしまう状態
認知症
- 正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活が営めない状態
アルコール依存症
- 家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態
精神障害者への5つの配慮
① 認知機能の低下への配慮
外部からの情報を自分の置かれている状況に応じて判断・行動することが苦手
- 勤務時間
心身の持久力が低下していることに加え、職場では緊張していることが多く、休憩
時間を活用することもうまくできないこともある為、勤務開始当初(業務・会社生活
に慣れるまで)は休憩の回数を多く設けることや労働時間を短縮する等の配慮が
必要
- 仕事の教え方・選び方
視覚や聴覚等、さまざまな方法で伝達することが必要です。
認知した情報を処理することや整理することもうまくできない為、 「マニュアルをフロー
チャートにする」「文章を短くする」等の工夫が必要でしょう。
さらに、複数の業務・作業を組み合わせることや同時に処理することがうまくできない為、「仕事を細分化する(シングルタスク化)」ことや「状況に応じて対応が変化する業務は割り振らない」等の配慮が必要です。
障害者の特徴 | 対応策 |
新しいことを覚えにくい
何度も同じ質問をする |
マニュアルの作成
メモの習慣化 チェックリストの活用 |
集中力が続かない
同時に二つの事ができない |
こまめな休憩、目先が変わる作業を入れる
優先順位を決めて一つずつ |
効率よくできない
計画が立てられない 指示されないと動けない |
具体的手順を指示
段階的に習熟させる 予め段取りを決める 1日のタイムスケジュールを示す |
人を頼りたい気持ちが強い
自己抑制がききにくい 相手の気持ちを掴みにくい |
相談ルールを決める
落ち着ける方法を相談 根気よく説明する 周囲が理解する |
② 自信及び自尊心の低下への配慮
- ストレスに弱い
- 複雑な対人関係が伴う業務や、折衝等が必要な業務は避ける
- ノルマ・業績目標等の設定は避ける
- 失敗に対する過度な叱責は避ける
- 「課題」に焦点を当てるよりも、本人の「強み・長所」に焦点を合わせる方が有効
- 何ができるのか
- 得意なこと
- うまくできた作業・業務を褒める(言葉で伝達する)ことで自信を付けさせる
③ 通院・服薬の遵守に配慮
- 通院し、服薬を継続している精神障害者は多く、精神疾患は慢性疾患である為、通院・服薬を継続することが基本
- 自己判断で通院を見送っていないか、服薬を怠っていないか等をチェックする必要がある
- 通院の時間確保
- 定期的な服薬確認
④医療機関や就業支援機関との連携
状況に応じて医療機関や就労支援機関と連携をとることも有効となる
⑤コミュニケーションに関する配慮
本人が気軽に相談できる、同一の人から指示される方が迷いが少なく、効果的
- 障害や勤務状態などをよく理解する
- 日頃から率直な話ができる関係を構築するよう努める(うまく気持ちを伝えられないことを認識した上で)
- 注意や指摘を過度に気にする場合もある為、「こうしろ」という指示・命令的な指導よりも、「こうした方がよいのでは?」などと助言する形の方がよい
- 会社以外に支援者がいる場合は、本人の同意を得た上でその人に相談することも効果的
- 相談を受ける人の負担に対する職場の理解とバックアップも大事
- 人事異動等で担当が代わる場合、しっかりと引継ぎを行い、不安をもたれないようにする
障害者と心を通じ合わせるために必要な3つの法則
障害者とコミュニケーションする際は、以下の3つの法則を押さえておきましょう。
法則1:十分な説明なしに相手から「気持ちや考え・価値観」を押しつけられると受け入れられなくなる=相手より自分の考えを優先させると行き詰る
法則2:相手に「自分の考えや気持ち・価値観」が伝わったと感じたら次々に分かってもらいたいことを表現する=うなずきや感情の反射・明瞭化など受容的態度で相手を受け止めるとうまくいく
法則3:相手の反応は自分の関わりの有効性を示す=双方の気持ちや考えのずれに気づいて修正することが、対話の目的である
上記の法則に加えて、最も大切なのが”誠実さ”です!「貴方のこと、ほっとけない!」大切な存在であると伝えていくことが大切です。コミュニケーションにより「気持ちのくみとり」「共感」「安心感という贈り物」「外界に不安なく立ちむかえる勇気」を与えることが大事です!
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この記事を書いた人
株式会社JSH